「俺、今日誕生日なんだよね」
部屋に入るなり、男は満面の笑みでそう言った。
「というわけで土方、今日はコレを着てみよう」
「絶対ェ着ねェ」
「ちょ、お前、紙袋の中身見る前から却下するこたねぇだろ」
「テメェの持ってくるモンなんてロクでもねェもんに決まってんだろ」
「オイオイ、検事が偏見によって判断しちゃダメだろ。まずは自分の目で現物を確かめろよ。ホラ」
「偏見じゃねェ、純然たる事実………あ?」
「な。コレならいいだろ」
「…何だコレ。カンフー服?……しかも普通に男物…」
「え?何お前、女物の方が良かったのか?実はそういう趣味?」
「誰がだ!俺ァただテメェのことだから、てっきりメイドとかナースとかそういう…」
「あー、確かに俺はナース好きだけどね。でも男がナース服着てもなァ…」
「そりゃ俺もそう思うが。…へぇ、テメェ意外とその辺の感覚は普通なんだな。」
「まァそれはそれでキワモノって感じが却ってイイのかもしれねーけど…男が女装するって何つーか、それだけで非日常じゃん?イメクラの香りが漂うっつーか、既に受け入れ体勢万全ですって感じがしてあんまり燃えねーんだよな」
「……は?」
「コスプレイするからには、やっぱ真面目でお固い顔したヤツを快楽に堕とすってシチュエーションが一番燃えるだろ?そうすると、男は普通に男のカッコしてねーとリアリティがねェっつーか。だから俺はお前に着てもらうならナースより白衣のお医者様がイイし、メイドより執事がイイし、ミニスカポリスよりはキッチリ制服着こんだ男性警察官の方が…」
「テメェの変態嗜好はよーくわかったからそれ以上口を開くな」
「おー、わかったんなら着てくれるよな」
「俺がわかったっつったのはテメェの変態ぶりを認識したってことであって、その嗜好を理解し共感したって意味じゃねェよ!!」
「相変わらず丁寧なツッコミだな。…つーかお前、そんなに嫌か?コレ」
「……いや、まぁコレは別に…ってか、何でカンフー服…?」
「そりゃ、白衣とか執事とかだとお前絶対ェ着てくんねーじゃん。コレならオメーも着てくれるかと思って」
「いや、お前が俺の意思を尊重して妥協するとかあり得なくね?何企んでんだ」
「おいコラ、お前の中の俺ってどんなイメージ?別に何も企んでねぇって。単にお前に似合うだろうと思っただけだっつーの」
「………」
「だってお前、黒髪黒眼の典型的なアジアン美男子じゃん?ずっと剣道やってたおかげで身体も引き締まってるし、こういう武道家的なカッコ絶対ェ似合うと思うんだよな。せっかくスポーツマン的な身体してんのに、いつもカッチリしたスーツじゃ勿体ねーと思ってよ……あんまり派手なのじゃオメー嫌がると思って色もデザインも控え目なのにしたんだけど、コレでも嫌か?」
「…………」
「な、着てくれよ。…誕生日プレゼントだと思ってさ」
「ぐ……」
(…確かに黒地に控え目な銀糸の刺繍…柄の趣味悪くねェし、普通の長袖長ズボンに詰襟で露出度も少ねェ。…変にウエストが緩かったりオカシなとこにファスナーやボタンがあったりしねェし、フロントファスナーの上に中華ボタンが幾つもあって脱がすのは面倒な造り。動き易そうだし妙な匂いもしねぇし……本当に、普通の男物のカンフー服…だよ、な……?)
「……わかった」
「お、マジで?よかった。実は俺用のカンフー服も持ってきてるから一緒に着ようぜ。お揃い、な?」
「おそろ…って、寒いこと言ってんじゃねーよ」
(……どうしたんだコイツ?なんか今日、いつもの強引さがねェな…。アレか、この前ん時に思いっきり殴り飛ばしたのが効いてんのか。顔面に拳入れられりゃ流石のコイツも懲りるか)
バサバサ、シュル
「おー、やっぱ似合うな。うん」
「…つーか、サイズぴったり過ぎて怖ェんですけど。お前これオーダーメイドしたとか言わねェよなまさか」
「俺も似合うか?」
「答えねェってことはオーダーメイドなんだなアホかテメェ。お前の誕生日に何で自分が金使ってんだよ。弁護士ってのは金余ってんのか。っていうか何でテメェ俺のサイズ上から下まで完璧に知ってやがんだ」
「何でって、そんなん俺の身体が覚えてるからに決まってんだろ」
「……偶にテメェが本気で怖ェ」
「偶に、ね……それはそうと、土方検事?」
「あ?」
「それを着たということは、コスプレイに同意したと受け取ってよろしいですね?」
「…………は?」
「は、じゃねーだろ?無理やり着せたわけでもねーのに衣装を着た、イコール、了承の合図だろーが」
「ちょ、ちょっと待て。だってカンフー服だぞ?コスプレイってお前、これでどんなプレイするっつーんだよ!」
「そりゃお前、中国拳法の達人であるお前が、同じ流派の拳法を習得しながら自らの野望のために悪の道に走った兄弟子である俺を止めるために」
「どんな中二設定ィィィ!何の漫画だよ!燃えるのか!?それでお前は燃えるのかァァァ!?」
「何言ってんの?ものっそい燃えるわァァ!お固くて真面目な使命感に燃える若き拳法家が、邪悪な兄弟子の妙技に翻弄されて徐々にその身体が快楽に目覚め始め…」
「バッドエンドじゃねェかァァァ!」
「いやいや、その後二人は幸せに甘く淫らな日々を送るわけだから、ハッピーエンドだよ」
「それどんなエロゲー!?」
「わかったなら、ほらヤるぞ」
「誰がヤるかァァ!いつもいつもテメェの思い通りになると思ってんじゃねェぞ!」
「ああ、イイ目だ…だがお前程度の力では俺の野望は止められない」
「ムリヤリ始めんなァァァ!!ノらねェ!俺は絶対ェノらねェぞ!」
「かかってこないのなら、こちらからいくぞ…?」
「ひ…っ、や、やめ、放せ、触るなァァァ!!」
「そうそうその調子」
「演技じゃねェェ!ちょ、やめろバカ、本気放せって…ッあ、や、ぁ――!!」
結局。
誕生日だろうと何だろうと、やってることは何も変わらないのだ。
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いつも通り変態な弁護士と、いつも通り流される検事。
一周年企画でリクを募集したら、弁護士大好きな黄純さんから
『扇子』の二人でラブラブ微エロ会話文(コスプレイ)
というスパルタなリクを頂きまして。
で、「何コスがイイんですか白衣は却下ね!(弁護士の白衣コスは、他の方が書いてらっしゃるのを見たことがあるから)」と聞いたところ、
黄純さんが悩んだ末に出して下さったお題が、カンフー服。
…え?何それどんなプレイ?(爆笑)
と、いうわけで出来たのがコレです。
まァ、定番からちょっとズレたマニアックなことするのがウチの弁護士らしいっちゃらしいですよね(笑)
相変わらず変態ですいませんでした!