コイツとパーティーを組んでどのくらい経つだろう。
宿の一室。
自分の隣で酒盃を傾ける男の横顔を見ながら、きんときは考えた。
かぐらと二人旅をしていた自分が、この黒髪の男と、栗色の髪をした少年のコンビに出合って。四人パーティーを組むようになってから、どれだけの月日が流れたか。
…そして。
いつの間にか、体力が無い癖に攻撃力だけ人並み以上で無鉄砲なこの男に惹かれてしまって、何だかんだで両想いらしき状態になってから。
どれだけの月日が流れただろうか。
……流れて、しまっただろうか。
きんときは胸中に深い溜息を吐いた。
自分でも何故だか判らないがこの男に惚れてしまって。
しかも驚いたことに、向こうもこちらを憎からず思っていてくれたらしいことを知って。
所謂…恋人同士ってヤツ?という間柄になってから、確実に三ヶ月以上経過している。
それなのに。ああそれなのに。
(未だに触れるだけのキスしか許してもらえないってどういうことですかコノヤロー…!)
酒の入ったコップを握り締めて、銀時は心の内に嘆きの声を上げた。
お互いに立派な成人男性。好いた相手に触れたいという欲求は当然、ある。
心が通じ合ったら次は身体も繋げたいだろーが!何も間違ったこと言ってねェだろ!と、きんときは思う。
それなのに。この恋人は、未だに一線越えさせてくれないのだ。
オイ待てどういうことだと、声を大にして叫びたい。
初心、というわけではない。はずだ。
この男は整った顔立ちをしているし、今までも相当モテただろうと思う。経験が無いとは思えない。
そもそも、コイツはそんな可愛げのある性格の持ち主ではないのだ。
意地っ張りだが潔いところもある男だ。一度覚悟を決めてしまえば、情事にそこまで逡巡することも無いだろうと思っていたのに。
なのに、何故。
「なァ…ちんかす」
「その名前で呼ぶなァァ!」
このムードも何もかもぶち壊す名前のせい、だけではない。と思う。
きんときが細心の注意を払って名前を呼ばないようにイイ雰囲気に持ち込んでも、色めいた空気が流れ始めた途端、コイツはあからさまに距離を取るのだから。
屈辱的な名前のせいで気分が乗らない、とかではなくて、他に明確な理由があるに違いないのだ。
「……あの、さァ」
「ーっ」
今夜こそは、と瞳に本気の色を宿して、ちんかすの肩に手を回す。
するとちんかすは息を飲んで身体を引いた。肩の腕も振り払われる。
「っ、なんでだよ!」
叫んだ声は、思ったより悲痛な声音が滲み出てしいたようで…ちんかすは少し瞠目した後、罪悪感を覚えたように俯いた。
「………だよ」
「あ?」
ボソリ、呟かれた声。
よく聞こえなかったが、どうやら情事を避ける理由を話してくれているらしいことが判って、きんときは慌てて聞き返した。
「なんだって?」
「っだから!…俺ァ、男は初めてなんだよ!」
ガバリ、と上げられた顔は、予想外に真っ赤で、しかもほんのり涙目。更には告げられた内容も予想外。
「へ?…いやあの、それはむしろ大歓迎というか、いやお前がヴァージンじゃなくても別に責めるつもり無かったけど、俺が初めてならそれはやっぱり嬉しいというか、うん嬉しいんですけど、それが何か?」
(…って、何言ってんの俺!こんなん言ったらコイツ怒るじゃん!絶対怒るじゃん!)
予想外の事態に慌てるあまり、明らかに適切とは言えないだろう受け答えをしてしまったきんときは、冷汗をかいてちんかすの様子を窺う。
しかし、確実にキレるだろうと思われた短気な恋人は、キュッと唇を噛んで視線を下に逸らすと、消え入りそうな声で呟いた。
「…い、痛ェんだろ…?」
(〜〜〜っ!?)
『きんときは混乱した』
そんなテロップが頭の中に流れる。きんときは目を見開いて目の前の男を凝視した。
この、いつも意地っ張りで喧嘩っ早くて傲慢で無鉄砲な男が。
未知の行為への不安に揺れて、瞳に怯えを宿している。
(ななな何、何なのこの可愛さ!ちょ、予想外にも程があるぞ!ソ○トバンクもビックリだコノヤロー!)
情事を避けられていた理由が、そんなことだなんて。
滅多に見られない可愛さに心を震わせて、きんときは思わずちんかすを抱き寄せた。
「大丈夫!すっげー優しくするから!そりゃ初めてだからちょっとは痛いかもしれねーけど、そんなことどうでもよくなるぐらい気持ちよくしてや…」
「だから!そのちょっと痛いってのが問題なんだろーがァァァ!」
ドカッ。
ちんかすの耳にとびきり甘い声を吹き込んでいたきんときは、俄かに暴れだしたちんかすに突き飛ばされた。
「テメェ、挿れた衝撃で俺が棺桶になったらどうすんだよ!!」
放たれた台詞に。
今までのちんかすの行動が、全て納得できて。
同時に頭が真っ白になって、きんときは固まった。
「…流石にちょっと、萎える、かも…」
「………だろ」
長い沈黙の後にそう呟けば、ちんかすから返ってきたのは、遣る瀬無いような憮然とした返事。
その声音に、ああ、コイツだってヤりたくなかった訳じゃねェんだ、と知って。
きんときは頭を抱えた。
この想いは前途多難。
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ありがちネタすいませんでした(笑)
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