「おや、綺麗になりやしたね?」
「凄いアル!」
涼やかな鐘の音と、聞こえた声に二人は勢いよく扉へと顔を向ける。
そこには、この惨事の原因とも言える二人がけろりとした顔をしていたから、
「ちょ、おまッ!」
「何処行ってやがった!」
てっきりこのまま各々のねぐらに戻ったかと思っていた二人のいきなりの登場に、銀時と土方は思わず身を乗り出して詰め寄る。
が、肝心の沖田も神楽もどこ吹く風、といった様子でお互い顔を見合わせた。
「何処も何も、腹減ったんで昼飯食ってました。」
「久し振りにとんかつ食べたアル。」
「「オイイイイイイイーッ!!!!」」
店一つ壊すほどの喧嘩をして出ていった二人が外へ出るや否や飯食ってた、なんて。
二人の性格なんて解りきっていた筈だが、とそれまでいがみ合っていた事実も忘れて、銀時と土方は思わず眼を合わせて肩を落とす。
「んで?店はどうしたんでィ?」
「言うのか?テメーがそれを言うのか?」
もはや数時間前の出来事すらも覚えてない様に沖田が周囲を見渡す。
確かに、事情を知らないものが見れば僅かな時間の間に何があったと疑問に思うに違いない。
が、眼の前にいるのは当事者二人だ。
「どうしたもこうしたも、お前と神楽で二人で仲良く暴れた結果だろうが……。」
「形あるモンはいつか壊れるネ。」
「壊れたんじゃねェ、壊したんだよ!」
すぱん、と小気味よく神楽の頭を叩き、銀時は改めて店内を見回した。
確かに、清々しいくらいに何も無い。
先程まで合った木製の椅子も机も、ベージュのカーテンも、綺麗に取り払われている。
元のままなのは壁と床、それに入口の扉くらいなもんだろう。
ちなみに先刻から姿の見えない長谷川は、と言うと、今頃病院のベッドの上、だろう。
先程の神楽と沖田のやり取りに首を突っ込んで、文字通りの満身創痍。
この店の行く末を案じたのか、銀時と土方から『手伝う。』言葉を聞く瞬間まで必死に意識を繋ぎ止めていたのだ。
きっと、当面の復帰は見込めない。
と、なると、彼が戻るまで、せめて形だけでも喫茶店を運営していかなくてはならない、が……。
取り敢えず、適当に机と椅子を調達してインスタントコーヒーでも出して置けばいい、と。
一応ながらも経営者としてあるまじき発言をけろりと吐き出した銀時と、それに良い顔をしないながらも他に方法がない土方が頷こうとした時、
「おやおや、それァいけませんぜィ?」
大げさなまでに一人否を唱える沖田に、銀時・土方二人の不審な視線が向けられる。
「仮にも店を預かってる身ですぜィ?そんないい加減なもんじゃいけやせんや。」
「そ、れは……。」
色々と突っ込む余地はあるが、沖田の言う事は一理あると、土方が小さく言葉を濁す。
それでも、経営に至っては素人――一応この中では経営者である筈の銀時ですらその程度の案しか出せないのだから、土方は小さく眉根を寄せた。
「……じゃあ、テメーは他に案があるってのかよ。」
「まぁ、それなりに、ねェ?」
「……。」
ふふん、とどこか自信ありげな笑みは、それでも悪魔の微笑だ。
一抹の不安を感じて背筋に冷たい汗が伝う。
ちらりと土方が隣を見れば、銀時も何となく嫌な気配は感じたらしい、同じ様な視線が交われば、お互い強張った笑みのまま小さく首を振った。





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