The Unchangeble Position …?
日毎に天が高みを増して、其の分淡い蒼の下。
数え三つ目の季節に釣られてか、巷中もやや落ち着いて見え、商家の軒下に芙蓉の八重が仄白く光っている。
「涼しくなってきましたねー。」
江戸で最たる物騒な街の大通り。
周囲の装いは単衣、袷もまちまち乍ら、色合いは秋のそれで。
通年、厳めしい黒を纏う真選組にあって、職務の都合上、隊服はご無沙汰の山崎が呑気な声を掛けるのへ、
「見廻り中に散歩気分か?コラ。」
右一歩先。
紫煙を細引かせる低音が、舌打ちをする。
「いえ、滅相も無い。あ、そうだ。一件、報告があります。」
「あ?待て、おィ」
不意の『報告』の言葉に、土方が振り返ったが…全く意に介さない態で、山崎は言葉を続けた。
「吉原の件ですが、春雨が撤収した、と言うのは間違いないですね。奴らにしては『手緩い』観が否めませんが。とりあえずは『下界』の穴を塞ぐ事は無い様です。」
「山崎ィ、てめえ…。どうゆう了見だ。」
土方は完全に歩を止めた。
本来ならば、然るべき場所で為される内容の報告を…誰が聞いているとも知れない往来で。
まるで、閑話の様に話す山崎の…真意を探る様に見据えると、
「了見、なんてありませんよ。この件に関しては以上です。」
肩を竦めた山崎の、『いつも通り』のその面構えが。
了見と云う程の、思惑も、推察も…ましてや土方が判断せねばならない『何か』等無い、その程度の報告なのだと。
これまた、『いつも通り』。
言わずもがなに知らせてくる。
「、ちっ。…わかった。」
そう言って歩き出した土方の背中を見つつ、山崎は内心冷や汗をかいていた。
確かに。
本来であれば、この件は屯所内で報告を行い、監察方より正規に報告書を挙げて然るべき内容ではあった。
此の度の、吉原桃源郷の騒乱は春雨が主軸である事は明らかで。
その上、幕府高官の影がチラついて在る。
しかし、山崎が『些事』とした真意は…全く別な理由からで。
…『万事屋』が関わっていると、土方は勿論知っている。
だが…。
前を行く上司の。
『真選組の鬼』の内、隠れた情を知り、その魂を…どれくらいかは判らぬが、占めて揺さぶる事を許された『坂田銀時』という侍が。
この騒乱でまた一つ、新たに背負い込んだ厄介事を。
(俺が副長に言う…べきじゃないんだよなぁ。)
土方十四郎という人は。
多分、本人以外から知らされる事を『善し』としないだろう。
知ってしまったとして。
憤るならば、まだマシなのだが…恐らくは。
内に抱え込み、表さず…酷く苦しむだろうから。
(ホント、旦那。勘弁して下さいって。)
脳裏に浮かんだ雲の様な髪…もとい。雲の様な掴み処のない男の顔へボヤキつつ。
知らず立ち止まっていたらしく、
「何、気ィ抜いてやがンだっ!!さっさと来やがれ!!」
耳に馴染みの怒鳴り声に、我に返った山崎は、
「ぅえッ!?は、はいはいッ!!」
焦った態で追い掛けながら、けれど。
額に怒りマークの二つ三つ載った土方が、立ち止まって待っているのへ
緩む口を引き結んだ。
そして、また。『一歩の距離』を詰めぬ侭。
「ったく。…喰えねェ野郎だな。てめえは。」
「はは…、だから『副長助勤』なんでしょう?」
「言ってろ、阿呆。」
小突かれ、詰られ、それでも。
この立ち位置を、名前通りにする気は無く。
思いの外、紫煙の香は間近くて。
『一歩の距離』は、届くか届かぬか…今はまだ、これ位が丁度身の丈と。
『鬼の見ぬ間』に苦笑を零した。
(了)
宵待ちの頃。 の nas様から、相互リンク記念にいただきました!
やっまざきぃああああ!!
やべぇこの山崎とんでもなく好みなんですが…っ
岡目八目と言いますか、土方のことも銀ちゃんのことも第三者的な立場で冷静に見ていて。
優秀な監察にして、命令に忠実なパシリ気質…と見せかけて、時には己の判断で本来の職務に背くこともする。
副長の私情の部分までも、助勤な山崎。
男前すぎる…!ぎゃー!ジタバタジタバタ(悶)
私が山崎贔屓なのを知ってらっしゃって、わざわざこんな素敵小説を書いて下さったんですよぉぉ…ああああ(感涙)
nasさま、本っ当にありがとうございました!!