気が付けば、今日も同じ道をふらふらと辿る自分に顔を顰めた。




「…あー。…またかよ」


 思わず出た呟きは、諦めを孕んで空気に溶ける。


 答えなんか、改めて導き出すまでもない。



 …ああ。

 コレが俗に言うアレですか。


 寝ても覚めてもってヤツですか。




 ……ああ ちくしょー。


 やってらんねーこのやろー。













【結局は勝ち負けなんだよ、勝ち負け】














 喩えるなら。

 それはまるで決められた散歩コースを歩くみてぇに正確に。

 淀みない軌跡を辿る足を褒めるべきか蹴り飛ばすべきか…。





「……あ〜…、つかヤベェでしょ。それよりまずヤベェでしょコレ」


 最近お馴染みさんになっちまった大通りに面した甘味処の前に立って。
 俺は自分の置かれている状況に大いに顔を顰めると、ああまたやっちまったとガックリ項垂れた。



 …だってヤベェもんコレ。ホンッとヤバい。

 ウン、何がヤバいって、…とにかくマジヤバい。
 何だかんだで此処に居るコト自体がゴリヤバい。
 どうしようもなくゴリヤバい。
 なんで俺……て。
 …アレ、ゴリヤバいてなんだ。
 ゴリってなんだ。
 ゴリじゃねーだろ。
 3歩譲ってもゴリじゃねーだろ。
 だってゴリっておま……いやいやそんなこたーどうでもいい。
 今問題なのァほら……。
 イヤ、とにかくヤバい。
 とにかくひたすらにヤバいんだってコレもう。



 …。


 いやいや落ち着け。
 こういう時にはまず落ち着こう俺。

 …アレだ。

 落ち着いてまず、タ イ ム マ シ ン を 探 せ 。














「…て、どこが冷静っっ???!!!」




 気が付けば、頭の中はヤバいコールと現実逃避の堂々巡りに陥って。



 ……ああホント、まじヤバい。




「どっぷりドツボコースまっしぐらって感じですかぁ?このやろー」





 …ああ、ありえねー。


 マジにありえねーよクソッタレ。





「…どこで間違えたコンちくしょ」


 出て来たそんな言葉に眉が寄る。


 …あ゛ータイムマシンさえ見つかれば。
 ホント今すぐそこまで戻ってやり直すのに。


 そんな事を思いながら。
 本来気分の弾むべき甘味屋の前で出た溜め息に。
 俺は項垂れたままの頭を、苦い気持ちで がしがしと掻いた。







 振り返るにはまだ早い今日を振り返ってみれば。
 今日はホントにいつも通りの変わり映えしない朝から始まった。
 たっぷり遅めのまだギリギリ朝という時間に起き。
 飯を食ってぼんやりしてる間にお日様は昇りきり。
 気が付けば昼になっててまた飯を食い。
 退屈凌ぎにソファに寝っ転がりながらテレビを観ても、どのチャンネル回そーが出てくる奥様ターゲットな番組構成に、結局 退屈な欠伸を一つ。
 そんな平穏で、ごくごく日常的ライフを俺は今日も過ごしていたはずだ。


 …ただひとつ相違点を上げるなら。
 今週のジャンプは土曜発売だったから、そんな週の月曜日は殊更にだらけて退屈で仕方ねーなとか。
 楽しみが前倒しになると、後の空しさもデケーよなーとか。
 只でさえ暇なのに更に暇で暇でたまらなくなる感じ。

 なら仕事をしろよと言われても、来ない仕事は出来ようもなく。
 そんな時は日がな一日のんびりマッタリ過ごすのが俺の日常……てドコのジジィだよ俺ァッ!
 ばかやろー俺の心はいつまでも輝ける10代なんだっつーのッッ!!


 なんて勢いでテレビを消して。
 気晴らしにツケのきく団子屋に糖分でも食いに行くかと腰を上げ、持て余した暇を少しは潰せるかと家を出た。









 そんで気が付けばこんな有様。








 …。







 あれ。




 …結局 俺、ドコ間違ったの?



 …だってアレだよ?

 俺の行動は、テレビ観んのに飽きたとこに腹と本能が丁度良く糖分を要求したんでじゃあ甘ェもん食いに出掛けようかなぁ…って、そんなごくごく自然な流れの中から出たモンだ。

 決してそれ以外ェのモンから出たもんじゃねぇ。ああ絶対にねぇ。



 …なのに。

 何で今こーなっちゃってんの俺ぇええッッ!!!??










 …。



 あー…、アレか?

 いっそ外に出たコト自体が間違いか?

 糖分てェ甘〜い誘惑にフラフラ〜ッと出掛けちまったのが間違いだったってか?

 そんで砂糖に引き寄せられて群がる蟻の如く、糖分を求める俺の本能が動かした足が。
 家を出て団子屋へと続く最初のステップである右への道を、おもっくそ真逆の左の方へ歩き出してたところがそもそもの間違いだったと。

 そこで既に俺の運命は決しちまってたとッ。

 そういうコトかよオイッ!!!











 …つかソレじゃんっ!!!


 間違い無くソレじゃんっコレ!!!

 てか最初の一歩からして間違ってんじゃんよ!!!

 手前ェんち出てまず右行くとこを左に行っちまってる時点で完全にアウトじゃんオイィィッ!!!

 何やってんの俺ッ!!
 右と左の区別もつかねーのちょっと!!?

 だからこーんな有り得ない状況に陥っちゃってんじゃん!!!

 しかもココに着くまで気が付かきもしなかったってのァどーゆうこと俺ェェエエッッ!!!!!

 無意識にも程があんでしょチョットォオオオッッ!!!!!








 …。









 ……あー。









 …ホント勘弁して。









「……昨日の今日だっつーの」




 そして零れ出た呟きに。
 諦めの様に溜め息をひとつ。

 手持ち無沙汰に掻いていた髪を、俺は更に乱暴に掻き回した。









 何度も何度も通った道を、足が覚えて無意識に辿る。

 それは酔っ払いが発揮する帰巣本能よりも優秀で、そして素面な分だけ始末が悪い。

 ホント、ぼんやりともしてられねぇ。
 足が勝手に動いてるって、どうよコレ。

 困ったもんだねまったくよ。





 思い返せば昨日も通った同じ道。

 オイオイ2日も空けずにって どんだけなのよと自分で自分に呆れ果てる。



「冗談じゃねーですよー?ホントォー」



 正直なのはキモチなのか、体なのか。

 いっそどっちもだろなんて、そんなのァ認めたくもない。


 認めたくもないが。

 それを否定もしたくない。


 げに厄介なのは、色恋の意地。

 だけどこいつァ、認めちまったら最後なシロモン。




 万事屋を出て左の道は、アイツへと続く道。

 理性か本能か。
 人間、興味有るコトにゃァ、手前ェでも驚く様な力を発揮するもんだって言うけれど。
 それにしたってコイツァどうよと頭を抱える。

 最初に目に入る煙草の自販機を皮切りに。
 年期の入った角の煙草屋、駄菓子屋の前、コンビニ、酒屋、飲み屋の横。
 それは気が付けば頭の中に出来上がっていた、アイツの見回りコース内に有るニコチン補充マップ。
 いつの間にか熟知しちまったそれらの場所を、順繰りに回って歩けば。
 その中に、まるであつらえたように建っているこの甘味屋が、辿り着く放浪の最終地点。

 ご丁寧に万事屋(ウチ)と屯所のほぼ中間なココは。

 つまり、俺とアイツの中間点。


 ならこっから先は、アイツの陣地。

 用も無くココを越えてこの先に行くのは、なんだかあからさまに俺がアイツに会いてぇと思ってるみてぇで。
 それはなんか、俺がアイツに負けたみたくてスゲェ癪だから。
 だからいつも、俺は此処で立ち止まる。


 偶然を装える境界線まで辿り着き。
 そこでようやく我に返っては、毎度繰り返す似たような言い訳と葛藤。

 そのくせ開き直ってくぐった暖簾の先で、通りのよく見える窓際を選んでは座り。
 気が付けば往来を過ぎ行く人の流れの中から、目が自然とアイツの姿を探してるからどうしょうもない。


 …マジでどんだけなのよ俺。





 …いやいや、これァ一種の不可抗力。


 勝率の良い賭には誰だってハマる。


 なにせ3回に1回は大当たり。

 とくりゃ、常用性は増えて当然。


 味を占めれば人間なんて単純だ。
 気が向いたらフラリだったのが、最近じゃ日課のみてえになってきやがった。

 とうとう2日連続とかそんなアレ。





 ……ああ畜生。

 これじゃホントにドップリって感じじゃねーか。

 見事にハマっちまってるみてーじゃねーか。

 完っ全に おめーにメロメロ☆みてーじゃねーかァアアアッッ!!!!!








 …いやいやいや、待て。

 …違うから。

 ソレありえねーから。
 これアレだから。
 銀さんただ糖分取りに来ただけだから。
 甘味に引き寄せられてついココまで来ちゃっただけだから。
 アレなんだよ、いっそこの店の糖分にメロメロ〜ッ☆ってヤツなんだってウン。
 絶対そっちだからコレ。
 あんな瞳孔おっぴろげのニコチン野郎のコトなんざ全っ然これっぽっちもカンケーねーからウン。
 そうそう、それでいこう。
 それでいこう。
 つか、それしかねーでしょ俺。
 それしかねーでしょっ??!

 ぜってー認めてたまるかチクショーがァアアアッッ!!!!!




 そんな毎度の心の絶叫と共に。
 延々と店の前で悶々としながら突っ立っていた俺は。
 思い切るように意を決すると、目の前の暖簾を腕で勢い良くはたき上げ。
 ひらりと舞ったその暖簾をくぐり、店の引き戸を開けようと手を出した。
 …その先で。

 いきなりその戸が、ガラリと開き。







「「・・・・・、アレ?」」




 そして瞬間、突き合わせていた、顔。


 自動ドアよろしく開いた戸に驚いて、上げた顔の先にあったその姿に。
 互いが同時に出した声が、ものの見事に重なって。


「「・・・・・ あ゛」」


 もう図ったとしか言いようがないタイミングで顔を突き合わせた俺たちは、そのまま見事に固まると。
 ピンクないしは掃き溜め色。
 一瞬そんな、薄ら寒いような気色悪い空気が。
 自分らの周りに漂った気がした。






 ……イヤイヤイヤ。



 どこの少女マンガだよッ??!


 ちょっ、俺ァ根っからのジャンプ派だからッ!!!

 バリバリのアクション派だからッ!!!

 …ちょっ、コレまじありえねーからァァッ!!!






「…や、や〜。珍しいトコで会うじゃねーの土方くん。…なに、真っ昼間っから…サボリ?」


 そんな一種異様な空気を払拭しようと、俺がぎこちなく顔を歪めながらそう言うと。


「…あ、ァ゛あ゛っ?! ッちち、ちげーよっ、人聞き悪ィことぬかすんじゃねぇっ!!! …ひ、昼飯…、俺ァ食い損ねてた昼飯食ってたんだよっ、昼飯っ!」

「…はァ?」


 そんな俺に負けず劣らず顰めっ面した土方の口から返ってきた、ヤケに無理矢理感のあるその台詞に。
 俺は思わず呆れた声を出した。



「……昼飯って、…甘味屋で?」

「…わ、悪ィか」

「…や、だって甘味屋だよ?」

「マヨ掛け団子は栄養満点だ。文句あっか」

「え、何それ営業妨害?」

「ンだとゴルァッッ!!!」


「…なあお客さん。そこは店の入口なんだけどね…」


「「あ、すんません」」



 そして気が付けばいつも通りの悪態の応酬を繰り広げていた俺たちは、店の親父に渋顔作ってそう言われ。
 そこで同時に吐いた詫びの言葉と共に、一瞬静けさを取り戻した。




「みろ、オメーのせいで怒られちまったじゃねーか」

「ぁあ゛?! なに人のせいにしてんだ。あきらかにテメーのせいで、だろうが」

「違いますぅ〜、オメーがでけー声出すからですぅ〜」

「それがテメーのせいだっつってんだよ」

「いーや、オメーだ」

「ふざけんな、テメーだよ」

「…あららァ情けねぇ〜。手前ェの落ち度も認めらんねーんだオメーは」

「…ンだと?」

「イヤイヤ〜、名前の一人歩きとはよく言ったもんだね。鬼の副長っつーのは、まじ名ばかりのとんだヘタレだわ」

「ぅをォし上等だァッ!! 表出ろゴルァアアッ!!!」


「だから店の入口で迷惑だっつってんでだよ!! 出入り禁止にするよアンタらっ」


「「あ、マジすんまっせ〜ん」」



 そして再加熱した応酬に、再び店主に怒鳴られた俺たちは。
 客たちの冷めた視線に見送られながら、そのまま閉め出されるように、ぴしゃりと店の外へと追ん出された。








「「 …… 」」







 真っ昼間の往来で。
 大の男が2人して。
 しばし無言で立ち尽くす。







「…あーあー。オメーのせいで糖分食い損ねちまったじゃねーか。どうしてくれんだコラ」


 そんな微妙な沈黙を消し去りたくて、溜め息をひとつ。
 ぱりぱりと髪を掻きながらそう言った俺の横で、同時にカチリとライターの鳴る音がして。


「テメーの糖分の事なんざ俺が知るかよ」


 一呼吸おいて漂ってきた紫煙とその声に、思わず頬が引き攣った。

 …ああ、マジかわいくねー。



「…ったく。…つか最近、なんか行く先々でテメーのツラ見てねーか? オイ、いちいち目障りなんだよクソ天パ」

「アラそー? 僕 知りまっせーん、そんなのォ」


 そして更に飛んできたそんな小憎らしい台詞に、そらっ惚けてそう返す。






 ああホント、出目の当たりは良いクセに。

 当たる景品は今ひとつ。


 なんで会えばこんなかねぇ、俺たちは。







 そんな思いに少しばかり苦々しく舌打ちをすれば、その音すらも見事にハモって。
 またぞろ睨み合う様に、互の顔へと目を向けた。



「…大体、なんでテメーがこんなトコくんだりの甘味屋に来てんだ。テメーの行きつけは近場でツケのきく団子屋と甘味処と駄菓子屋だろーが」


 そして先に口を開いた土方から出た忌々しげなその言葉に、俺の顰めっ面にも益々磨きが掛かる。


「どこに食いに来よーが俺の勝手ですぅ〜。糖分のある場所それ即ち俺の居場所だ。手前ェにとやかく言われる筋合いはねーよ」

「ほお。最近は随分と景気が良いんだな。ツケ無しで食い放題か」


 それにすかさず返してきた土方の、口の端をニヤリと持ち上げた嫌みな顔に。
 俺の顔も静かに笑って引き攣った。


「…いいこたァねーけどよ。…けど、なんだ。まあちょっとした気分転換、つかな」

「…気分転換ん〜?」


 その顔にそう答えれば、途端に疑わしそうな声が返ったきて。


「あァそーですよー? 気分転換ー。最近ちょっと腹周りがアレだと言われたとか メタボ対策とか だから甘味屋は運動がてら少し遠くに行ってみようかなとか、そんなん全っ然カンケーねーから。うん、ホントカンケーねーからね」

「…どこのオッサンだテメーは」


 ばかやろー本当の理由なんざ口が裂けても言えるわけがない。
 だから畳みかけるようにそう言ってやれば、さも呆れたような声が帰ってくる。

 …余計な世話だっての。


 …あ〜、つか。
 ンな細けーツッコミしてくんじゃねーよ。
 ちょっぴ びびったじゃねーか。
 なんでテメーがンなコト知ってんだよ。

 …てか。
 俺ァそこまで手広くツケじゃあ食ってね……。







 …。




 ……アレ?




「……つーか。何で俺の行きつけ知ってんのオメー」

「ッ!!」


 ふと気付た疑問にそう問い掛けてみると。
 土方はあからさまに、ギクリと一瞬息を飲み。
 それを見た俺は、その態度から瞬く間に弾き出したその答えに。
 口の両端を、ニンマリと吊り上げて笑みを浮かべた。



「あー…。そーいや最近、俺が行く先々でもよく見かけんじゃねーか副長さん」

「…あ、ぁあ゛ッ??!」

「甘味処とか団子屋とかパチンコ屋とか…。……お、何なにぃ〜? …もしかしてオメー、銀さんのこと探して歩ってたりしてンの? リサーチとかナンとか、それとなく銀さんの立ち回り先を赤ペンチェックですかぁ?このやろー」

「…ばっ!!! ……イヤ馬鹿言ってんじゃねー。…誰がするかンな事」

「…へぇ〜え」



 その態度に、俺の笑みは益々深くなる。


 …バーカ。
 そんな風に誤魔化してもバレバレなんだよおめーは。

 いつもやたらと沸点が低いクセに、何か誤魔化そうとする時はヤケに冷静で。
 そんでもってそういう時は、そうやって煙草を指先で摘んで吸うんだよ。

 最近 気付いた大層わかりやすい癖。 

 それはつまり、俺の予想が大当たりっていうコトなワケで。



 …うわ、なんか気分いー。

 そんなに銀さんに会いたかったってかコノヤロー。

 かーわいいトコあんじゃねーの。





 …なんて。
 考えてみれば、色々と思い当たる『偶然』を思い返しながらニタついてたら。

 目の前の土方は、そんな俺を見て大層苦々しそうに舌打ちをひとつ打ち。
 と同時に、何かを思い出したように突然「あ」と呟いて。





「つかよ」

「…あ〜?」

「そりゃあ、実はてめーの方なんじゃねーの?」

「…へ?」


 出てきたその言葉に。
 思わず俺の笑みが引っ込んで固まった。


「メタボ対策だの何だの言いながら、わざわざコッチになんざ足のばしやがって。てめーこそアレだろ。実はテメーこそ俺のこと探し歩ってんだろ。俺の立ち回り先を赤ペンチェックしてやがんだろ。…あーどうりで最近やたらとテメェのツラばっか見るはずだ。違うかゴラ」


 そして続く様に言われたそれに、痛いトコロを突かれまくって、内心ギクギクとなった俺は。
 それでもそれを気付かれまいと平静を装いながら、面倒臭そうに左手を伸ばすと、首の裏をぱりと軽く一掻きした。


「……いや、なに言っちゃってんのオメー。どんな想像力よ。…や、ナイナイ。ナイでしょソレ。…つか、どんだけ創造力豊かなのよ。…まじでナイから、無いってホント。銀さんがそ〜んな、恋する少女漫画のヒロインみてーな事するかってーの。な? 俺ァ根っからのジャンプ派だから。しかも守備範囲はめっさバリバリのアクション系だから。そんな乙女チック路線とは縁もゆかりもねーのっ」


 と。
 殊更だるそうに振る舞いながらそう答えて、ちらりと横目で土方を窺うと。

 捉えた土方は、少し見開いた目で俺を見ていて。



「…ヘェーエ」


 その口元に、ニヤと笑みを浮かべると。
 煙草をその口元に運びながら、やけに含みのある声でそう言いいやがった。







 …うわ。

 なんかすっげムカつくんですけどそのツラ。
 何その、『そういう事にしといてやるよ』的な態度。
 それは俺の方だつーのゴラ。



「…なに。何か言いてーコトでもあんのオメー」

「いーやァ?」


 その態度が面白くなくて、ぶすったれた声を出してそう言えば。
 土方は軽く体を曲げて、更に小さく笑っていやがって。




 …くそ、ムカつく。

 何だってんだチクショー。

 何ですかこの形勢逆転ぽい状況。

 せっかく『オメーが銀さんにベタ惚れでメロメロ〜』ってー気分を満喫してたのに。

 台無しじゃねーかコノヤロー。

 俺のいー気分返せコラ。


 ッあーくそ、まじムカつくコンチクショー!!!








「…ところでさァ。銀さん明日はここいらで屋根葺きのお仕事なんだよね〜」

「…ぁあ?」


 ムカッ腹を抑えながら。
 俺がいきなりぽそりと切り出したその言葉に、土方が怪訝そうな声を出してこっちを向いた。


「…何が言いてぇんだコラ」


 そして不機嫌そうに吐き出された言葉に、俺はニンマリと笑みを浮かべた顔を返しながら。


「あらヤダ、そォんな風に聞こえますぅ?」


 そしてわざとらしくそう答え。


「…ああ因みに副長サンはァ、明日はどの辺 見回るご予定ですかァ?」


 その不機嫌ヅラに、更に茶化すようにそう言ってやれば。
 土方の顔は、一瞬ぽかんと目を見開いて。
 そしてみるみる苦虫噛み潰したような渋顔になり。



「明日は非番だ馬鹿野郎」



 さも面白く無さそうに、俺から顔を逸らしてそう吐き捨てた。



「あーらら〜ァ、ざーんねん」





 その姿に内心 盛大にほくそ笑み。

 そして明日もきっと会えるだろう目の前の相手に。

 してやったり、と目を細めた。






 色恋で、勝ち負けなんぞにこだわんのはバカらしい。

 そんでも負けらんねぇのが俺たちで。

 意地でも譲れねェのはお互い様。









 ああけど俺はきっとまた。

 この道を。

 懲りもせずさ迷っちまうんだろうなあ、…ちくしょー。






  <了>




ぷらちなそうる の とか様からいただきました相互記念小説!
相互リンクを貼っていただいた御礼に私の駄文を捧げましたところ、な、なんと「お返しに」ということで…!
「お互いにベタ惚れなんだけど、相手に気付かれないように必死な二人」というリクをして書いていただきました!

うきゃああぁ、ありがとうございます〜!!

もうタイトルからして私の好みにストライク…っ!

とか様の小説は、キャラクターの心の動きの描写…特に、銀時や土方のぐだぐだとした葛藤が絶品で!
このお話でも、前半のヤバイヤバイ言う銀時がもう、あああ最高です大好きです!!

ちょ、どうしましょう海老で鯛釣ってしまいましたキャッホウ。
とか様!本っ当にありがとうございました!