Today is...
「はいはーい、飲んで飲んで。どうぞ遠慮なく」
「遠慮なくって、俺が金払うんじゃねェのかそれ」
暗めの照明、ゆったりとしたジャズのBGM。時折それに女性の楽しげな笑い声が重なる。ここは所謂、ホストクラブ。
その一角のBOX席で、土方は頼んでもいない酒を押し付けてきた男をジロリと睨み付けた。
大抵の人間なら顔を引き攣らせて半歩引き下がるはずの眼光に、しかし男は意に介した様子もなくヘラリと笑う。
「細かいことは気にしない気にしない」
「気にするわ!」
「えー?そう?」
えー、じゃねェよ。土方はヒクリとこめかみ辺りを引き攣らせた。そらっとぼけて小首を傾げる男の顔を殴り飛ばしたい衝動に駆られて、必死でそれを耐える。
喧嘩をしにきたわけではないのだ。今、この店で騒ぎを起こしてしまうのはマズイ。
膝の上で拳を固めて益々眼光を強める。が、やはりというか男は全く怯む様子を見せず、代わりにほんの少しだけ表情を引き締めると、スイッと土方に顔を近付けた。
「…じゃあ、お兄さんだけに特別大サービス。この一杯は俺の奢りね」
内緒だよ。そう言って唇の前に人差し指を立ててみせた男の表情は妙に甘ったるくて、なるほどホストとはこういうものか、と土方は眉間に皺を寄せる。
ホスト。そう、この男はホストだ。
金色の髪に赤いシャツ。ブランド物らしきスーツ、ほのかに薫るコロン。見た目からして「いかにも」なホスト。
戯けた言動も馴れ馴れしい態度もそれらしい…尤も、土方はホストのことなどよく知らないから、これは偏見なのかもしれないが。
…自分の眼光を受けて平然としているのも、女の怒りを受け流すホストの手練手管だろうか。
苛立ちを抑えようと煙草を咥えれば、すかさず目の前でライターを灯された。躊躇いつつもそこから火を貰って深く吸い込み、伏し目がちに煙を吐き出す。
視線を感じて顔を上げると、こちらを見詰めて微笑む瞳と目が合った。
ホストってのは男相手にもこういう態度をとれるモンなのか。
奇妙な居心地の悪さに、土方はゴソリと腰を動かして男から距離をとる。そうしてから、男を怯ませるはずが自分の方が後ずさってしまったことに気付いて一つ舌打ちをした。
――どうにもやりにくい。
「ま、ゆっくりしてってよ」
「…いや、だから俺はここに飲みに来たわけじゃねェっつってんだろうが。オーナーに聞きたいことがあるっつってんのに何でこんなトコ座らされなきゃなんねーんだ」
にっこりと微笑んだ男に、土方は低い声で言葉を返した。この店に入ってから、もう何度この台詞を繰り返したか判らない。
言葉の通り、土方は客としてここに来たわけでは無かった。土方は男で、ホストクラブに遊びに来る趣味など持ち合わせていない。ここへは仕事で聞き込みに来ただけ。それも大した話では無かった。
経営者からちょっと話が聞けたらすぐに出て行くつもりで土方は店に足を踏み入れたのだ。来店した、というよりは、立ち寄った、と言った方が正しい。
それなのに今、どうしてBOX席に腰掛けて、そのうえ隣にホストがはべっているのか。
それは、入口で用向きを告げた土方をこの男が強引に座席に引っ張り込んだからに他ならなかった。
どういうつもりだ。
苛立っているのを隠しもせずに睨みつけると、男はちょっと困ったように肩を竦め、頭を掻いた。
フワフワとした金色の髪が揺れて、暗めの照明を照り返し煌めく。
…天然なのか人工なのか知らないが、色はともかくあの跳ね方が故意なのだとしたら、コイツにヘアスタイリストの才能は無いな。
そんなことを考えていると、ふいに溜息交じりの声が耳を叩いた。
「あのさァ、お兄さん」
急に甘ったるさの消えた声色に驚いて男を見れば、金髪失敗パーマのホストは呆れと苦笑を多大に滲ませた表情で、グッっと下から覗き込むように土方に顔を近付けた。
「いきなり店に入って来て、入口で警察手帳なんかチラつかされたらこっちだって困るわけよ。令状ひっさげてのガサ入れだってんならともかく、ただの聞き込みなんだろ?そんなんで変な噂が立ったりしたらさァ。ウチは信用第一の健全な経営がウリだってのに」
「………そりゃ、悪かったな」
数秒の沈黙の後に、渋々ながらも土方は謝罪した。
確かにこの男の言いたいことは判る。突然店先で警察手帳を提示されるなど、客商売としては迷惑の極みだろう。…しかし土方とてその程度のことは弁えているから、店先ではそれなりに気を遣ったつもりだった。手帳をチラつかせると言ったって本当に「チラ」としか見せていないし、用向きを告げるのに殊更大声を出した覚えも無い。それほど店に迷惑を掛けたとも思えないのだが。
それなのに素直に謝ってしまったのは、男の纏う雰囲気が唐突に変わったことに毒気を抜かれたからだ。
呆れたように非難の言葉を紡ぎ出した男からはあの奇妙な甘ったるさが消えていて、心なしかデカくなった態度と怠そうな口調は、とても接客業にたずさわる人間のものとは思えない。だが、それは逆に土方に気安さを感じさせた。
ひょっとして、これがこの男の素なのだろうか。
…だとしたら、コイツは意外と話せる奴なのかもしれない。
口調はぞんざいでムカつくが、言っていることはまあ的確だ。その言い分から想像するに、自分を強引に席に引っ張りこんだのは店先で話されては迷惑だと思ったからなのだろう。とすると、先程まで土方を「客扱い」していたのも、周りの客に不審感を与えないための演技か。…存外、頭の良い男らしい。
これならば、突然押しかけた非礼を詫びて事情を説明さえすれば、きちんとオーナーに取り次いでもらえるだろう。
そう判断した土方は、知らずと張っていた肩の力を抜いた。
…の、だが。
土方の謝罪を聞いた男は、ニッと笑ってソファに凭れかかった。
「うん。わかったならさ、その眉間の皺ゆるめて、楽しんでるお客さんのフリしてよ。ホラ飲んで飲んで」
「待て、入口がマズイんなら店の奥で話させてくれ。表から見えない場所なら客のフリする必要はねェだろ」
「いやー、店の奥に怖いお兄さんが入ってくってのもちょっとねぇ…ウチの体面を守るためにはコレが一番いいからさ」
「……男のくせにホストクラブに遊びに来たことにされてる俺の体面は?」
「ま、そういうお客さんも実は結構いるから」
「いるいないの問題じゃねェェ!俺は自分が『そういう客』だと思われるのが嫌だっつてんだ!」
前言撤回。何だこのムカつく野郎は。
土方はヒクリと頬を引き攣らせた。
ホスト然とした態度をどこかにうっちゃった金髪男は、ソファにふんぞり返って気怠げに土方に言葉を返してくる。戯けた言動は気安さを通り越して人をバカにしているとしか思えない。
ダメだ、やっぱりコイツは話にならねェ。土方は早々に見切りを付けて溜息を吐いた。
「もういいから早くオーナーを呼んでくれ。テメェに用はねェ」
「オーナーは今いねェよ。この店だけ経営してるわけじゃねェから、滅多に店には来ねェな。…つーかウチは結構でかい店なんだし、普通そんぐらい想像つかね?アンタほんとに刑事さん?聞き込み慣れてねェの?」
「〜っ、オーナーっつったのは言葉の綾だよ!経営責任者的なのを出せっつってんだ!マネージャーとか店長とか、何かいるだろうが!」
「マネージャーも今忙しいんですー」
「てめ…っ」
この野郎、俺をナメてやがる。
ピキリ。土方の額に青筋が浮かぶ。
上等だコラ。俺ァこの界隈では移勤してきたばっかで新顔だけどな。今までどこに配属されようが「鬼刑事」で通ってきてんだよ。俺を相手にナメた態度をとったことを今すぐ後悔させてやらァ。
スッと静かに深く息を吸い込んでから、今まで刑事として犯人も部下も上司でさえも震え上がらせてきた瞳をカッと見開く。
いいからとっとと経営に携わってる人間を出しやがれ。
…そう怒鳴ろうとして、土方は一瞬、息を詰めた。
見開いた目に映った男は、再び唐突に、纏う空気を変えていた。
「…ホストに用は無い?」
甘く問う声。真っ直ぐにこちらを見据える瞳。微笑む口元。滲む色気。
しかしそれは、先程の「接客モード」に戻ったというわけでは無く。
こちらを射抜く瞳は凄絶な色気を漂わせながらも、そこに漂うのは甘ったるさというより…腹の底まで見透かされるような、強さ。
ゴクリ。土方の喉が小さく鳴った。
「そ…んなん、当たり前…」
「俺、創業時からこの店にいて、オーナーともマネージャーとも旧知の仲なんですけど。滅多に店に来ないオーナーよりもずっと、裏も表も詳しいぜ?」
「………………お前」
裏も表も。その台詞に込められた意味を悟って、土方は目を瞠った。
この店で聞き込みをするならオーナーよりも自分にするべきだと、そう言っているのだ。この男は。
自らそんなことを言い出すなど、警察の聞き込みに余程慣れているのか。…オーナーと旧知の仲、ということは、この種の来客への対応を密かに任されているのかもしれない。
…何にしても、コイツは只者じゃない。
男の雰囲気はいつの間にか怠いものに戻っていたが、土方の感覚は既にそう確信していた。
黙ってジッと見詰め返す。と、土方の見る目が変わったのを察したのか、男はニヤリと笑って名刺を差し出した。
「どーも。この店のNo.1やってます、坂田金時です。よろしくぅ」
「な…っ!No.1!?テメェが!?」
ガタン、と腰を浮かして叫んだ土方に、男…坂田は心外そうに眉を跳ね上げた。
「ちょ、何その反応!金さん傷付くんですけど!そんなにダメホストに見えますかコノヤロー!」
「そうじゃねェよ!No.1がこんなとこで何してんだっつってんだ!指名とか入ってんじゃねーのか!?いきなり押しかけてきた刑事の相手してる暇なんかあんのかよテメェ!」
「…へ?」
驚きのあまり土方が怒鳴れば、坂田は一瞬キョトンと間の抜けた顔をした。
意外そうに目を瞬いた後、その表情はすぐに楽しげなものへと変わる。
「……へぇ…」
「あ?」
「や、なんでもない」
訝しげに眉を顰めた土方にはヒラヒラと手を振ってみせて、坂田はさり気なく斜め下に顔を俯かせて表情を隠した。
…なるほど。仕事一直線で周りのことなんか目に入らねェ傲慢タイプと見せかけて、意外と相手のことにも気ィ遣うヤツなわけね…などとブツブツ呟いた口の端がニヤリと持ち上げるのが目に入って、土方の眉がピクリと上がる。
ひょっとして値踏みされてんのか俺。それも腹立つが、しかしそんな台詞が丸聞こえでいいのかよNo.1ホスト。まさかNo.1ってのはハッタリか?
土方は胡乱な目を坂田に注いだ。この男が、No.1など。やはり信じがたい。
(…だが、さっきの雰囲気は確かに只者じゃなかったしな…いやでもそれとコレとは話が別っつーか、只者じゃねェからって女の支持を集められるわけでもねェだろうし。そもそもNo.1ホストが警察の聞き込みを相手にできるほど暇なわけねェもんな。やっぱりハッタリか。…や、でも俺を相手にそんなハッタリ飛ばす意味がなくねェか…?ああもう訳が判らん!)
ぐしゃぐしゃになり始めた思考に頭痛を覚えて額に手を当てる。
そこへ、そっと席に近寄って来たケツアゴの男が坂田に声をかけたことで、土方の混乱は更に拍車がかかった。
「あの、金さん、そろそろ…」
「んー、もうちょっと待ってもらって」
「は!?ちょ、お前…!」
二人の会話を聞いて、土方は慌てて声を上げる。
本物だ。ハッタリなどではない、本物の売れっ子ホスト。ケツアゴの男の態度から土方は直感的にそう感じ取った。
そしてコイツは今、指名客を待たせている。それもおそらく、複数。
…そう考えてみれば、先程からずっと突き刺さるような視線が周囲から飛んできていた。てっきり男の客が珍しくて注目を集めているのだと思っていたが、アレは坂田がテーブルに来るのを待ち望む女の視線だったのだろうか。
何てこった。土方はクラリと眩暈を感じた。
売れっ子ホストを長時間独り占め、など。そんなことをしに来たわけではない。穏便な聞き込みに来たというのにこれではまるで営業妨害ではないか。今更ながら、周りの視線が痛い。
何をしてるんだ俺は。そして何を考えてるんだコイツは。
土方はグッタリとした視線を坂田に向けて、追い払うように手を振った。
「オイ、さっさと行けよ。指名入ってんだろ?」
「大丈夫だいじょーぶ。後でちゃんとフォローすっから。それよりホラ、何か聞きたいことあるんじゃねーの?」
事も無げにそう言い放った坂田を、土方は唖然として見返した。
確かに、自分には聞きたいことがある。そして彼の言う通り、No.1ホストの上にオーナーと旧知の仲であるという坂田は情報を得るには最適の相手だ。…だが、店の営業を妨害してまで情報を得ようと思っていたわけではない。真っ当な商売をしている店を敵に回す気も無ければ、女達の嫉妬の視線を浴びるのも御免被りたかった。
そもそも、客を待たせてまで聞き込みに協力するなど、そんなことをしてコイツに何のメリットがあるのだ。
後でフォローすると言ったって、客を怒らせてコイツのためになることがあろうはずがないのに。
戸惑った視線を向けると、「なに?俺の売り上げを気にしてくれてんの?優しーね刑事さん」などと戯けた台詞が返ってくる。
土方は当惑しきって眉を顰めた。
「気にするっつーか…意味が判らねェ。なんでテメェはそんなに俺に絡むんだよ」
さっきまでずっと、警察が来た時の対応をオーナーに任されているのか、でなければ暇なホストの気まぐれかと思っていたのだ。聞き込みに来た刑事を強引に接客する理由など、そのくらいしか思いつかなかった。
だが、No.1だというならどちらもあり得ない。警察の対応なんかよりやるべきことがコイツにはあるに違いないのだ。先程声をかけに来たケツアゴの男は明らかにそういう顔をしていた。
ならば、何故。
指名客を待たせてまで、執拗に自分に絡むのか。
…さっぱり判らない。
「……なんで、ね…」
坂田は土方の問いに小さく呟くと、楽しげな表情でこちらに向き直った。
「刑事さん、今日が何の日か知ってる?」
「は?…七夕だろ」
唐突な質問にパチリと瞬きながらも、簡単に思い当った答えを告げる。
と、坂田はしたり顔でチッチと指を振った。
「惜しい」
「アァ?」
惜しいも何も、他に何かあるのか。土方は眉を顰めた。
今日は間違いなく7月7日。この店の入口にも見事な笹が飾ってあって、客が書いたらしい短冊が吊り下げられていた。どこのホストクラブでもこういうことをやっているのか、この店独自の催しなのかは知らないが。
店の飾りつけまで七夕仕様にしておいて、他に何が。
目で問えば、坂田はニヤリと笑ってこう言った。
「恋の日」
「………はァ?」
「7月7日は、恋の日なんだぜ」
「……悪ィ、何だか寒気が…」
あまりにも、な答えに、土方は本気で寒気を感じて腕を擦った。
ホストって、こんな甘いを通り越して寒いことを言うものなのか。いや、ホストがどうとかは関係なく、単にコイツが寒いのか。
ドン引きしました、という顔を隠しもせずに見遣ると、坂田は慌てたように顔の前で手を振ってみせる。
「待て待てコラ。ホントなんだって!日本記念日協会が今年から正式に認定したの!『織姫と彦星が年に一度再会できるこの日を、すべての恋する人を応援する”恋の日”と定める』って!疑うんなら調べてみろって!」
「……マジかよ」
坂田がどうやら事実を言っているらしいと悟った土方は、苦虫を噛み潰したような顔をした。
なんつー…バカバカしいというか、こっぱずかしいというか…どちらかと言えば後者だろうか。真剣に記念日を設定した人には悪いが、長らく色恋というものから遠ざかっている仕事人間の土方にとっては戯言にしか思えない話であった。
この国ァ平和だな…。何となく疲れを覚えて、溜息が漏れる。
すると、目の前の男が小さく笑う気配がした。
「うん。俺も最初はそういう顔したよ」
顔を上げれば坂田はほんのり自嘲的に微笑んでいて、予想外な表情に土方は目を瞠る。
「…俺さ。こんな街で、こんな商売してて、しかもNo.1とか張っちまって…男と女のドロドロした部分も一杯見てるし、恋だ何だなんてもうキレイとも楽しいとも思えなくなっちまってたんだよな。当然、”恋の日”がどうこう言われてもバカバカしいとしか感じなかったし、せいぜい客との話のネタ?ぐらいにしか思えなかったんだけど」
静かに語る坂田の目が隠しきれない淋しさを湛えているように見えて、土方は思わずドキリとした。
…この男が纏う雰囲気を変えるのは、コレで三回目だろうか。コイツは一体いくつの顔を持っているのだろう。そんなことを考える。
夜の街の、そこそこ大きなホストクラブの、No.1。
それは土方には窺い知れない世界だ。
坂田はきっと、自分が想像するよりずっと多くのことを経験してきたのだろう。人の世の酸いも甘いも、苦いも辛いも噛み締めて来たに違いない。でなければ、あんな強い瞳も、こんな淋しそうな目もできないはずだ。
”恋の日”という言葉に同じように顔を顰めたと言っても、自分が感じたバカらしさと坂田の言う「バカバカしさ」はきっと重みが違う。坂田の言葉には、底知れぬ実感が伴っていた。
この店に足を踏み入れてからずっと、この男に振り回されっぱなしなのは…人生経験の差、か。
ホストって職業を蔑んでいるつもりは無かったが、もしかしたら無意識に見下してたのかもしれねェな…。土方がそんな自省の念を覚えた、矢先。
「でも、今日、この店に入って来たアンタを見てさ。悪くねェかもって思ったんだ」
「……は?」
聞こえてきた台詞の意味が判らなくて、土方は目を点にした。
顔を上げれば、坂田は真っ直ぐにこちらを見ていて。その瞳の強さに、土方は何故か無性に逃げ出したいような気分に駆られる。
坂田はそんな土方の様子に気付いているのかいないのか、ズイッと身を乗り出しながら言葉を続けた。
「理屈じゃねェんだよな、やっぱ。恋する瞬間って電撃だわ」
「え、ちょ」
「そう思うと、『恋を頑張る全ての人が主役になれる日』なんて認定されてる日が年に一度くらいあってもいいんじゃね?みたいな。言わばバレンタインみてェなモンだよな。一つのきっかけになるっつーか、勇気を貰えるっつーの?」
「待て、何の、話を」
トス、と土方の背がソファの背もたれに当たる。いつの間にかBOX席の角の部分に追い込まれていることに気付いて土方は狼狽した。
閉じ込めるように目前ににじり寄る坂田に、待て、と何を制止しているのかも判らぬまま手を上げる、と、その手を掴まれてヒクリと身体が強張った。
「…なァ、土方刑事?」
間近で瞳を覗き込まれ、息が詰まる。
身動きも取れずにいると、掴まれた手が持ち上げられ、引き寄せられて。
「アンタもさ。俺と一緒に、今日の主役になってみねェ?」
指先に、口付けられた。
殴ればいいのか、赤面すればいいのか。
咄嗟に判断が付かなかった土方は、気付けばその両方を同時に実行して店を飛び出していた。
鼻で笑い飛ばせば良かったんだ、と正しい選択肢に思い至ったのは店から遠く離れてからで。
ホストの戯言に本気で動揺してしまっていた自分を認めざるを得なくて、土方は頭を抱えた。
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4日遅れの七夕話。
…もともと小ネタ部屋に突っ込む予定の話だったので、何というか、支離滅裂感が漂っている…
うーわー…すいませんすいません。
長さ的に小話扱いにさせていただいたのですが、後で読み返して羞恥に堪えられなかったら(笑)小ネタ部屋に引っ込めるかもしれません。
黄純さまのサイト四周年のお祝いに捧げさせていただきます。こんな駄文でよろしければ貰ってやって下さい。
弁護士じゃなくてごめんなさい(笑)
最初は弁護士で書こうと思ってたんだけど…どうしても金魂にしたくなっちゃったんだ…